Vol.2 萩原忠 × 松田貴盛

「一つの道を極めよ~元アポロ技術者、萩原忠氏」

萩原氏「一番の先生は自然」~松田氏「今はまだ石器時代」


萩原 忠(はぎわら ただし)
山梨県出身。1931年生まれ。立教大卒。62年から米アポロ計画に参加。高度経済成長期、企業の技術顧問としてプラントの装置を開発。2001年ハジー技研(千葉県茂原市)設立。飲食料を保存する真空容器を開発している。取得した特許は650件以上に上る。


発明家、萩原 忠氏は真空にまつわる世界トップクラスの技術の持ち主だ。 かつて米アポロ計画に携わり、プラント装置開発などで日本の高度経済成長も支えてきた。 十分な食べ物がなくひもじい思いをした戦後の経験から、86歳となった今も飲食料を保存する真空容器の開発を続けている。 世界の食糧問題を改善させたい一心で最先端の技術を追い求め続ける情熱に迫った。

発明を続けるにあたり、大切にしてきたものは何ですか。

■萩原 忠氏(以下、萩原氏):
戦争が終わって中学校に入ったとき、校長先生が「少年よ大志を抱け」というクラーク博士の言葉を紹介してくれた。 そのときは「大志って何だろう」とサッパリ分からなかったが、その後の人生でずっと追い求めてきた。 そして86歳になった今、ようやく大志とは何だか初めて分かった。 世界中に何十億人という人がいるが、一人ひとりが他の人にはない特徴を必ず持っている。 大志とはその特徴を生かして世のため人のために尽くすこと。 だから、まずは人に持っていない特徴を自分で見極めることが大切だ。 私の場合は生まれつき器用なところがあった。 幼稚園の頃から親戚の時計やミシンが壊れると、全部「忠のところに持って行け」と言って私のところに来た。 なぜか分からないが触っているうちに直ってしまった。 少年時代には焼け跡に落ちていた水道管でロケットを作った。 木の板を壁にすれば突き刺さって止まると考えて火をつけたら、なんと400メートルも飛んでいってしまった。 慌てて米兵がやって来たので「俺が作った」と説明したが「おまえなんかに作れるわけがない」と疑われるほどよくできていた。 そんな経験を重ねるうちに自分の特徴に気づいていった。

人に持っていない特徴を探すことは〝教育〟の大義の一つとも言えます。

■松田 貴盛塾長(以下、松田氏):
人生とは、自分が何のために生まれてきて何を残すかを見つける旅だと思っている。 やりたいことがない子もいっぱいいるが、すぐに見つけることはない。 やれることを一生懸命やっていけば必ず見つかる。 そのために必死で自己探求しなければならない。 私自身も自分をもっと高めたいし、まだまだ足りないところも多い。 リオンでは塾長の立場だが、生徒から学ぶこともたくさんある。 10代のまぶしいパワーに負けられないし、背中で見せていかないといけないと思っている。

萩原先生は650件以上の特許を取得しています。発明の極意は何ですか。

■萩原氏:
一番大切なことは物事をよく理解することだ。 何か一つのモノをみる時に作った人の気持ち、目的、特徴をよく見極めること。 自分が勉強をする前に人がやっていることをよく見ることだ。 自分と比較してどこが優れているか、どこが劣っているかを見る。 人との対比が非常に大事だ。それを道具にして自分の特徴を探せばいい。 そして、一つひとつの情報を整理整頓し、頭の中に棚を作る。 その大きな棚から必要な時に必要な情報を引き出すことがまさに〝技術〟だ。 努力とは何かと言われれば、頭の中の棚をいつも整理整頓しておくことに尽きる。

■松田氏:
リオン塾生には毎日同じことを言っている。 知識は最低限必要だが、それを生かすための意識を変えていかなくてはならないと。 意識があるから知識が生かされる。大学に受かることはひとつの手段で通過点にすぎない。 もっと鳥瞰図で、自分の人生の長い道のりをみていかないといけない。 医学部に入るための勉強なのか、医者になるための勉強なのか、目的をはっきりさせることが重要だ。 極端な話、大学に行く必要はない。現場で勉強すればいい。 目的を考えて手段を生かしていかないと、結局自己満足で終わってしまう。

萩原先生にとっての師匠を教えてください。

■萩原氏:
私くらいの年齢で、私くらいの技術屋になると、誰にも聞くわけにいかない。 世にないものを生み出して何百も特許を取っている。 みんな私は神様だと言うけど、私だって人間だし、教えてもらいたいことがいっぱいある。 先生とは何かと言えば「自然」。自然の進化ほどすごいものはない。私など足元にも及ばない。 地球の歴史は人間の比じゃない。アリでも動物でも何をみても完璧に進化してきている。 数億年かけて自然に勉強してきている。これが本当の技術。進化が一番の技術と言って間違いない。

感性を磨くために「教育」が果たす役割はあるでしょうか。

■松田氏:
自分で体験するしかない。考えてまずそれを感じないといけない。 ブルースリーの言葉に「Don’t think, feel」というのがある。 考える前に感じろと。四の五の言わずにまずやってみろと。 やって分かることがあるし、触ってみて分かることがある。その考えが好き。 私も気になったらすぐやってみるし、気になった人がいたら会いに行く。 いまの若い人たちと言ってはいけないが、まず考えてしまう傾向が強い。 考えるのは大事だが、まず感じようぜと伝えたい。

萩原先生の目から見て、現代に名前をつけるとすると何時代と言えるでしょうか。

■萩原氏:
絶滅しないために自分の種を残そうと努力するのが自然界の植物であり動物だ。 ところが人間はバカだから、絶滅すると思う。努力していない。 今の時代はもし100万年後の人間が見たら、石器時代よりもっと古い時代のことを言っているのではないかと言うに違いない。 我々は今が最先端と思っているけどとんでもない。まだまだ原始時代だ。 土の中から掘った燃料を使ったり、原爆で戦争をしたりする人間はバカだ。 動物は人間と違って公平。人間は威張っているが、最も絶滅する危険があるのではないか。

■松田氏:
私も今の時代はまだ石器時代だと捉えていて、萩原先生の考えに共感する。 人間の大きなミステイクは科学が進歩すれば、自分たちが自然をコントロールできると思ってしまったところにある。 西洋で産業革命が起き、近代科学が生まれてモノと心を別物にしてしまい、大量生産、大量消費の流れができた。 モノの本当のありがたみ、本質を全く見ずに消費することが人の幸せにつながると勘違いするようになった。 これからを担う若い世代がこのことに気づき、21世紀にどのように自然とかかわっていくかを考えていくことが重要だ。 人間を中心に考えないことが人間の進化につながると考えている。

若い世代へ伝えたいメッセージはありますか。

■萩原氏:
人生は1回しかないから、1つの道を歩むしかないということだ。私は母から一度だけ注意を受けた経験がある。 就職して初任給を母の前に持っていった時に「但し、人生は2回ないよ。ひとつの道を極めないとダメだよ。 途中で商売を変えるでないよ」と言われた。若いうちは自分の才能の見極めがつかないから迷うこともあるが、自分の道を歩んだらその道を一生貫くことが大志を抱くということ。 今になって母の言葉がようやく身にしみて分かるようになった。

最後に1つだけ若い人たちに言いたいのは、愛国心という言葉。国を愛すること。 ものすごく大事なことだけど、若い人たちは全く分かっていない。 戦前、戦中、戦後をずっと生きていると日本の国がどういう形でできてどうなっているのかをよく知っている。 だから日本の将来を一番心配している。私は自分の特許を国に返して、次の世代の人に日本の技術を世界へ広げていってほしいと思っている。 お金や名誉はいらない。世界の中で輝き続ける日本であってほしいと思っている。

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